モーズ軟膏について
モーズ(Mohs)軟膏とは、1930年代にアメリカの皮膚科医である(Frederic E. Mohs)によって開発され、人では皮膚がんの治療に用いられる特殊な腐食性のある薬剤を含んだ軟膏です。
動物に対しては、主な目的として、腫瘍自壊(表面が破れること)部からの出血、悪臭、滲出液を抑えて腫瘍自体の減量をするために使用されます。
重要なことは、根治治療として使用するのではなく、あくまでも腫瘍からの滲出液や出血のコントロール、悪臭の軽減といった生活の質(QOL)の向上を目的とした治療補助として使用されることです。よって以下の様な場合に使用されます。
・高齢や持病があることで麻酔のリスクが高い
・外科的切除が困難な部位(頭部、肛門付近や口周り)、完全切除が困難(巨大腫瘍や筋肉に固着など)
症例
実際に当院でモーズ軟膏処置を施したフェレットの症例を紹介します。
6歳10ヶ月のフェレットさんが、右耳付近の腫瘤(できもの)が大きくなっているとのことで来院されました。以前にもできものはあったが最近大きくなってきて、表面は自壊して痂皮(カサブタ)に覆われていました。それが剥がれて出血を繰り返しており、生活空間の所々に血液が付着する等、生活の質(QOL)が低下しているとのことでした。腫瘍の可能性が高く、根治治療には外科的な切除が必要でしたが、腫瘤の場所が耳付近で完全に取り切るには広範囲になること、年齢的に全身麻酔をかけるには高いリスクがあることから、QOL向上の為にモーズ軟膏処置の提示をして、飼い主様も希望されたため、後日実施することになりました。
実際の使用方法として、モーズ軟膏は腫瘍組織だけでなく正常組織も変性させる為、腫瘍周囲の毛刈りをして正常組織にはワセリンを塗り、ラップをかけて保護をします。適度な粘度に調製した軟膏を患部に塗布して、1~数時間後、組織が変色したらガーゼで軟膏を拭い去り、生理食塩水でよく洗浄して終了となります。広範囲に塗布すると強い痛みや、体動によって軟膏が飛び散って動物の周囲皮膚、保定者の皮膚や粘膜に付着する恐れがあることから、基本的には鎮静下で行う必要があります。
今回の症例では、フェレットさん自体が比較的おとなしくしてくれたことから、鎮静をかけずに処置を行うことができました。

まとめ
今回の症例では腫瘍組織が壊死・脱落したことで、出血や臭気もなくなり、QOLの改善を認めることができました。ただし腫瘍が全て取れた訳ではないので、再び大きくなってくれば処置が必要になることもある為、今後も経過観察をしていく予定です。
腫瘍があるが、高齢や持病があることで麻酔をかけることができない、腫瘍の大きさや存在場所で切除が困難なとき、出血や臭いの問題でQOLの低下がみられる場合などに、モーズ軟膏処置が有用であることが考えられます。同様のお悩みをお持ちの方は、動物病院に相談してみてください。
執筆者:滝野川動物病院 豊島 祐次郎