概要
急性胃拡張(急性消化管閉塞)は、
消化管の一部が急に閉塞し、その手前にガスや液体が急速に貯留して胃が著しく拡張する状態です。
ウサギでは重要度の高い代表的な緊急疾患のひとつであり、
適切な初期対応が予後を大きく左右します。
消化管うっ滞との違い
よくみられる「消化管うっ滞(消化管の動きの低下)」とは経過が異なります。
消化管うっ滞
- 徐々に食欲が低下
- 便の大きさが小さく、便の量が減る
- 比較的ゆるやかな進行
急性胃拡張
- 突然の食欲廃絶
- 排便の急停止
- 強い腹痛
- 急速な悪化
この鑑別は非常に重要で、
治療の緊急度が大きく異なります。
病態のポイント
閉塞が起こると、
- 閉塞部位より口側腸管内への急速な体液移動
- 再吸収障害
- ガス産生増加
が起こります。
その結果、
- 低容量性ショック
- 胃や腸の過度な膨張
- 静脈還流障害
- 消化管虚血や壊死
へと進行します。
特に胃や近位十二指腸での閉塞は進行が速く、
短時間で生命に関わる状態に陥ることがあります。
原因
最も多い原因は毛のフェルト状塊(毛球)です。
そのほか、
- 布繊維やカーペット
- プラスチック片
- 腫瘍や癒着による腸管の圧迫
なども原因となります。
臨床症状
- 突然食べなくなる
- 排便が急に止まる
- うずくまる、動かない
- 腹部膨満
- 強い疼痛反応
ショックが進行すると、
- 低体温
- 反応低下
- 横臥
といった重篤な状態になります。
診断
腹部触診で急性胃拡張で特徴的な胃の張りの有無を確認します。
レントゲン検査では、
- 胃の著明な拡張
- 著明に拡張した液体貯留胃内に、中央ガスキャップ形成(目玉焼き様像)
が特徴的です。
血液検査では、ショックや脱水の程度、循環不全による二次的な腎不全などの有無を評価し、他疾患との鑑別も行います。
治療
治療は迅速かつ積極的に行います。
初期対応
- 十分量の輸液によるショック補正
- 体温管理
- 強力な鎮痛
※胃穿刺は破裂リスクがあるため行いません。
改善しない場合
- 鎮静下での胃減圧、それでも改善されない場合は再減圧を検討
- 外科的介入
を検討します。
閉塞部位や虚血の程度によって予後が左右されます。
当院での対応方針
当院では、
ウサギが「突然食べなくなった」場合には、
常に急性胃拡張の可能性を念頭に置いて診察を行っています。
触診所見だけで判断せず、
- レントゲンによる評価
- 全身状態の把握
- 必要に応じた迅速な輸液・減圧処置
を早期に行うことを重視しています。
急性胃拡張は、
初期対応の質とスピードが予後を決める疾患です。
ウサギを診療するうえで外すことのできない重要疾患として、
常に想定しながら診療にあたっています。
症例
来院時の様子
3歳7か月のウサギ(ネザーランドドワーフ)が、
前日の夜から食欲と排便がなく、じっとして動かないとのことで来院されました。
診察時には
- 強い脱水
- お腹(胃)の著しい張り
- 活動性の低下
が認められました。
レントゲン検査では、心陰影は縮小し、胃が著しく拡張し、内部に液体が貯留し、その中央にガスが分離している“目玉焼き様像”を認めました(図参照)。このような状態は「急性胃拡張」と呼ばれ、ウサギでは短時間で命に関わることがある緊急疾患です。
初期治療
来院時は循環状態も悪く、すぐに治療を開始しました。
- 点滴による循環の回復
- 痛みのコントロール
- 全身状態の安定化
体重約1.3kgと小さく、脱水により血管確保が難しい状況でしたが、
まず少量の皮下点滴で状態を安定させた後、耳の血管から静脈点滴を行い、集中的な輸液治療を実施しました。
胃のガス抜去処置
輸液治療後も胃の張りが十分に改善しなかったため、
麻酔下で胃に溜まったガスを抜く処置を行いました。
処置後は
- 胃の大きさが明らかに縮小
- 呼吸・循環状態が安定
- 排便の再開
が確認されました。
その後の経過
翌日にはレントゲン上でも胃の拡張は改善しており(図参照)、
消化管の動きを整える治療を継続しました。
その後、
- 少量ながら自力摂食を再開
- 排便も徐々に回復
- 活動性も改善
と順調に経過しました。
入院下で状態の安定を確認したうえで退院とし、内服治療へ移行。
再診時には臨床症状の消失を確認し、治療終了となりました。

まとめ
急性胃拡張は、
ウサギ診療において極めて重要な緊急疾患です。
突然の食欲廃絶や排便停止は、単なる消化管うっ滞ではなく、急性閉塞のサインである可能性があります。
本例のように、適切な初期評価と迅速な治療により回復が期待できます。
「いつもと違う」と感じたら、
様子を見ずに早めに受診してください。
執筆者:滝野川動物病院 豊島 祐次郎
